【ハドソン川の奇跡】USエアウェイズ1549便の水上着陸事故【全員生還】

2009年、アメリカ・ニューヨークで、離陸すぐにエンジンの推力を失いながらもハドソン川に不時着、乗員乗客155名全員が生還した奇跡の事故があります。

事故当時の管制官とパイロットのやりとりの一部始終、そして定点カメラが捉えた不時着時の実際の様子(3:53)がまとめられた動画があります。

動画は事故調査機関である国家安全運輸委員会(National Transportation Safety Board:NTSB)がつくったものです。

この事故は「ハドソン川の奇跡」(原題:Sully)として映画にもなっています。Sullyは機長のチェズレイ・サレンバーガー(Chesley Burnett Sullenberger III)の愛称です。

事故の経緯

ニューヨークのラガーディア空港を出発したAmerican Airways 1549便は、離陸直後カナダガンの群れに遭遇、バードストライクにより両エンジンの推力を失います。

離陸後わずか93秒後、高度約850メートルでの出来事でした。

カナダガン(Canada Goose)
Photo by Gary Bendig on Unsplash

機長は速やかにハドソン川への不時着を決断し、着水までの208秒の間、副操縦士のジェフリー・B・スカイルズとともに、冷静な操縦を続けました。

ジョージ・ワシントン・ブリッジをギリギリの高度で飛び越え、時速270km程で機体分解する事なく着水しました。

着水時に後部壁下部の一部を損傷していたため、着水後間も無く後部からの浸水が始まりましたが、客室乗務員と機長、副機長による適切な判断と誘導によって、無事、乗客乗員全員が機外に脱出。

着水約4分後に駆けつけた水上フェリーを含め、アメリカ沿岸警備隊、ニューヨーク市消防局、ニューヨーク市警察、沢山の船が乗員乗客の救出を助けました。

Photo by Mike C. Valdivia on Unsplash

「川への不時着」という決断

サレンバーガー機長は、エンジンの推力が失われてすぐにハドソン川への着水を決意したわけではなく、近隣の空港に着陸できる可能性を探りながら、最悪のケースとしてハドソン川を意識していました。

出発したラガーディア空港の他に、ハドソン川の東側にはプライベートジェットが利用するテターボロ空港があります。

推力を失った事を確認した機長は速やかに、まず、管制官にラガーディア空港に引き返す事を宣言しました。

しかし、事故機が飛ぶのは多くの人が行き交うマンハッタン上空です。

両空港の近くには多くのビルや民家があり、もし僅かでも高度が足りなければ、乗客はもちろん、沢山の地上の人々が命を落とす可能性がありました。

高度も速度も失いつつある状態で、ラガーディア空港や最も近いテターボロ空港へ戻る試みはあまりにもリスクが高く、また不可能でもある事を機長は早々に判断します。

NTSBによる報告書より

「バードストライクに遭い」「想定されたことのない低高度での両エンジンの推力喪失」という状況を理解し、155人の命を背負いながら可能な限りの「対応」を試みる。

これらの事は、バードストライクに遭って僅か208秒(約3分半弱)の間に行われました。

ハドソン川への不時着を決断し、そして、この事故で一人の死者も出さなかった事は、サレンバーガー機長とクルー達、そして救助に関わった全ての人たちが起こした偉業です。

事故後一年に渡る調査の中で、事故当時の状況を再現したシュミレーションも行われました。そして「空港に戻れた可能性」について追求されます。

事故後のNSBTの報告書の結論の中に、以下のように書かれています。

The captain’s decision to ditch on the Hudson River rather than attempting to land at an airport provided the highest probability that the accident would be survivable. (p.120)

Loss of Thrust in Both Engines, US Airways Flight 1549 Airbus Industrie
A320-214, N106US

空港には戻らずハドソン川に不時着する選択が最も乗客の生存可能性を高めた、と結論づけられています。

こちらの記事には当時の乗客のインタビュー(日本語訳)が載っています。

映画:ハドソン川の奇跡

2016年にクリント・イーストウッド監督、俳優のトム・ハンクス主演で『Sully』が映画化されてします。

Sullyは機長の愛称です。邦題は「ハドソン川の奇跡」です。

映画は全米を感動させた「実話」を基にしていることから、製作者達は限りなく「本物」を再現する事に心血を注いだそうです。

撮影に使われた機体も、事故機と同じ引退したエアバス機(A320)を使ったそうです。

映画は、事故を調査する国家運輸安全委員会(National Transportation Safety Board:NTSB)がサリー機長とスカイルズ副操縦士に対し、「空港に戻れた可能性」について批判的に調査する構図が描かれています。

実際には、調査に協力的な当事者にNTSBがこのような厳しい追及を行うことはないそうです。

しかし、映画の製作者側は「1年以上もの時間をかけて機長の『ヒューマンエラー』を探すNTSBの行為」を『悪者』のように感じてしまう程の事を感じたのかもしれません。



2020年5月現在では、dTVで視聴可能です。

ドコモでなくても使えますし、初回31日間の無料おためし期間に退会すれば料金はかかりません。

一飛行機ファンとしては、事故やコックピットの様子、また航空管制官とのやりとりが細部にわたって描かれている様に大変感動しました。これを見れば、自然と機長や副機長のファンになります。

サレンバーガー機長のインタビュー・Webページ

サリー元機長は事故のあった翌年、2010年にはパイロットを引退しています。

サレンバーガー氏のウェブサイトもあるのでぜひ訪れてみてください。

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