ボーイング737-MAX8の墜落事故【ライアンエアーとエチオピア航空】

2018年と2019年に、ボーイングの737-MAX8という同機種の飛行機が墜落事故を起こし、いずれも乗員乗客全員がなくなりました。

自己調査の結果、新しく導入された操縦特性補助システム (MCAS)というシステムの誤作動、周知不足、使用上のミスなどが原因であることがわかりました。

この記事では

  • 飛行機の墜落の経緯
  • 今も737-MAX8は飛んでいるのか?
  • 今後の見込み

について、2020年3月25日現在の情報を中心にお伝えします。

同機の運行は世界的に禁止、生産も2020年半ばまで停止していました(2020年3月)。

その後、米連邦航空局(FAA)は2020年11月18日に、ボーイングの「737MAX」の運航再開を承認。同年12月からアメリカ国内限定で運行を再開しています(2021年1月10日追記)。

2つの墜落事故とボーイング737-MAXの飛行停止・生産の一時停止

20181029ライオン・エア610便墜落事故

2019年3月10日      エチオピア航空302便墜落事故

2019年3月13日      同一機種の運行が世界的に禁止される

2019年12月16日    737-MAX型の生産一時停止を発表

20181029ライオン・エア610便墜落事故

バンカ島のパンカルピナンに向かう737-MAX8機は、スカルノ・ハッタ国際空港を離陸した数分後にジャワ海に墜落しました。

乗員乗客189人全員が亡くなりました。

2019年3月10日 エチオピア航空302便墜落事故

アディスアベバのボレ国際空港発、ナイロビ行きのエチオピア航空ET302便は離陸後6分後に墜落。

乗員乗客157人全員が亡くなりました。

20193月 737MAXシリーズの運行停止

現在、世界的にボーイング737MAXシリーズは運行停止状態にあります。

2019年3月10日のエチオピア航空の墜落を受け、翌11日には中国民用航空局(CAAC)が、その翌日12日には欧州航空安全局(EASA)やオーストラリア、シンガポールやマレーシアなども運行停止措置をとりました。

米連邦航空局(FAA)は12日の段階では「調査ではシステムの性能に問題はなく、航空機の運航を停止する根拠はない」として、運行停止をしない姿勢を示していました。

しかし、3月13日になって、米国トランプ大統領の指示により、ようやくFAAも米国航空会社による運航と米国領域内の運航を停止しました。

参考:737MAX飛行再開になお時間、米航空当局に厳しい目(ロイター)

2020年1月 737-MAXシリーズの生産停止

2019年12月、737-MAXシリーズを生産する米国ボーイング社は、2020年1月からその製造を一時停止する事を発表しています。

日本の航空会社の対応

日本でも2019年3月14日に、国土交通省航空局(JCAB)が日本国内での運航停止を命じています。

そのため、2020年3月現在では、世界的に737-MAXシリーズの運行は停止されています。

このような状況ではあるものの、全日本空輸(ANA)を傘下に持つANAホールディングスは、墜落した機種と同種737-MAX8の導入を発表しており、2021年度から段階的に計20~30機を受領する予定とのことです。

ただし、737MAXシリーズの生産停止措置により、この発表内容は未だ正式契約には至っていないようです。

しかし、2019年12月現在では、その方針を変更しないことがANAホールディングスの片野坂社長から発表されています。

何が原因だったのか?

737-MAXシリーズで初めて導入された失速防止ソフトウェア「MCAS

事故原因は一つではありませんが、ボーイング社は、少なくともMCAS: Maneuvering Characteristics Augmentation System(操縦特性向上システム)が二つの事故にかかわっていたことを認めています。

また、二つの事故を経て、システムそのものの欠陥だけでなく、システムの危険性を軽視した事、またその運用、規制当局の対応等、様々な箇所で問題があった可能性が指摘されています。

尚、ライオン・エアでの事故に関しては、既にインドネシア当局から最終事故報告書が出されています。一方、エチオピア航空は2019年4月に暫定報告書が出ていますが、まだ最終報告には至っておらず、現在も事故原因を調査中です。

参考:米ボーイング737マックス2件の墜落に「明白な類似性」=エチオピア運輸省(BBC)

MCASは「機種を下げて失速を防ぐ」システム

MCASは「飛行機の機首(前頭部)が上がるのを自動的に抑える」システムです。

飛行機が上昇するためには、ある一定上の速度で「機首を上げる」必要があります。

しかし、一方で「機首が上がりすぎる」と飛行機は失速して墜落します。

この「上がりすぎ」を防ぐのがMCASです。

従来の737シリーズに比べ、737-MAXシリーズでは燃費向上のためにエンジンが大きくなりました。

その影響でエンジンの取り付け位置が従来機と比べ「より機体の上側」に。

その結果「機首が上がりやすく」なってしまったのです。

センサーで「機首の上がりすぎ」を感知すると「自動で機首を下げる」MCASが働いて機首を下げてくれます。

センサーの故障が招いたMCASの誤作動

ライオン・エアの事故では「飛行機の姿勢を測定する角度センサー(AOAセンサー)」が故障していました。

安全で問題ない「飛行機の角度」を保っていたにも関わらず、誤って「機首が上がりすぎている」とMCASに見なされたのです。

そうして起こった必要ない機首下げにより、飛行機は失速、墜落しました。

二つの事故の類似性として指摘されてのが『MCASの「不要な機首下げ」に対しパイロットが何度も機首を上げようと試みた形跡』がフライトレコーダーに残されている点です。。

MCASの事故を防げなかったのは何故か?

事故の原因に関わる「問題」は複合的であり、原因を「どこか一つ」に集約するのは難しようです。

現在、メディアでは、次のような観点でMCASのシステムやその運用についての批判がなされており、FAA当局による調査が進められています。

  • 十分に情報が周知され、パイロットの訓練もされていれば、MCASの誤作動に対応できたかもしれない
  • 情報共有のプロセスは十分だったのか
  • MCASの持つリスクについて生産者側が十分に注意喚起したのか
  • 737-MAXの安全性の審査を米連邦航空局(FAA)が適切に行っていたのか
  • 壊れたAOAセンサーの整備はどうなっていたのか

ライオン・エアの事故報告書によれば、原因はいくつかの複合的な理由に由来することが指摘されています。

インドネシアの航空事故調査官は会見で、事故は複雑なイベントの連鎖によって引き起こされたと説明。「われわれの認識では9つのイベントがこの事故につながった。このうち1つでも起きていなければ事故に至らなかった可能性がある」と語った。(ロイター「737MAX墜落、システム設計など原因=インドネシア最終報告」より)

ライオン・エアの事故機は墜落を起こす前日にも、AOAセンサーとMCASによる同様の不具合が発生していた。

しかしこの時は、非番のパイロットがマニュアルを確認し、問題を解決したそうです。

何故、前日にあったトラブルを共有できなかったのか、という点もメディアで取り上げられています。

ライオン・エアの墜落に関わる複数の問題点については、こちらの記事が詳しいです。

参考:ソフトウェア、センサー、乗務員…事故から1年、報告書が指摘するボーイング737MAX墜落の原因(ロイター)

今後の運用は?

2020年3月現在では、737-MAXの運行再開の目処は立っていません。

運行再開に向けボーイングは、今回問題となったシステムのアップグレードを行い、この修正プログラムについてFAAはもちろん、運行停止を決定した各当局の承認を受ける必要があります。

FAAは二期目のボーイング737-MAX8が墜落した際、すぐには運行停止を行いませんでしたが、他国ではその指示には従わず、独自に「運行停止」を次々に発表しました。

つまり、これまでのFAAのリーダーシップが少なくとも737-MAX8については揺らいでいると考えることができます。

中国や欧州、カナダの航空当局は、飛行再開に当たってFAAの判断をそのまま受け入れることはせず、独自の検証を行う構えだ。(2019年3月ロイターより)

事故の直接・間接的原因についての動画(英語)

エアバスとの競争により、エンジン位置をアップデートした経緯など、事故の直接的・間接的要因がわかりやすくまとめられています。

ボーイング737-MAXシリーズって何?

航空会社が運行する飛行機は、ざっくりと主に、大型・中型・小型の3タイプに分けることができます。

ボーイング737シリーズは客席約100〜200名程度の小型ジェット旅客機です。

737シリーズは、1967年の初飛行以来、改良を重ねながら今尚アップデートが続いている人気機種で、その第四世代と呼ばれているのが「737-MAXシリーズ」です。

ジェット旅客機の一シリーズとしては史上最多、商用輸送機の歴史でも屈指のベストセラーかつロングセラーである。(Wikipedia)

*ちなみに、航空機を「大きさ」で分類する方法は曖昧で、はっきりと区別できる「最大離陸重量」という基準もありますが、機能面を含めた「主観的なわかりやすい分類」とは異なるため、ここでは「ざっくり」とした主観的でわかりやすい分類基準を採用しています。

最大離陸重量による分類について詳しく知りたい場合は、このページでわかりやすく解説されています。

安全第一で運行して欲しいですね。

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