飛行機に乗る事に異常に恐怖する人がおり、私もその一人です。
飛行機事故の確率が恐ろしく低いことがわかっていても、なかなか怖さは無くなりません。
不安が解消されない理由の一つに「万が一にでも事故にあったらなにがおこるのか?」がわからない不安があります。
- もし事故が起こったら、どうなるのか?
- 飛行機はどの様に破壊されるのか?
- 事故機に乗る人の体は、どんな衝撃に晒されるのか?
- それは即死できるレベルなのか?
この記事では、有名な航空機事故をいくつか取り上げ、実際の飛行機事故で観察された出来事を紹介します。
結論として致命的な状況が起これば、
即死か意識不明に陥る可能性が高そう
という感じです。
飛行機に乗る際にできる「怖さを減らすための具体的な対策」については、別記事をご覧ください。
3つの悲劇的な航空機事故例
- 1977年 テネリフェ空港ジャンボジェット機衝突事故
- 2014年 マレーシア航空撃墜事故
- 2019年 エチオピア航空墜落事故
テネリフェ空港ジャンボ機衝突事故(2機の衝突による離陸失敗・火災)
1977年3月27日、スペイン領カナリア諸島(アフリカ大陸の北西沿岸に近い島)のテネリフェ・ノルト空港の滑走路でパンアメリカン航空(パンナム)1736便とKLMオランダ航空4805便の2機が衝突しました。

(作者:SafetyCard、Wikipedia より引用)
離陸中だったKLM機は航空は一時わずかに浮上するも、滑走路移動中のパンナム機の上部を破壊、そのまま進行したもののすぐに墜落、炎上。
パンナム機はその場で崩壊し、爆発炎上。衝突時に漏れた燃料による爆発と炎に多くが逃げ遅れ、また霧のせいで救出も遅れたため生存者が少なくなりました。
航空機による事故としては死者数最大のものとなっています。
- 機材:ボーイング747-100 (パンナム)、 747-200B (KLM)
- 死者:KLM機の乗員乗客248全員、パンナム機の335名の計583名
- 生存者:パンナム機の61名(全員負傷)
マレーシア航空370便墜落事故(爆破・空中分解)
2014年7月17日、オランダのアムステルダム・スキポール空港からマレーシアのクアラルンプール国際空港に向かっていたマレーシア航空17便は、ウクライナ上空で高度33,000フィート(10,058 m)で飛行中に突如、地対空ミサイルによって撃墜されました。
地対空ミサイル「ブク」は、飛行中のボーイング777機のコックピットのやや左前方の至近距離で炸裂したため、機体の前頭部が分断されました。
炸裂による金属片が飛び散り、コックピットにいた操縦士たちは即死だったとされています。
そのほかの機体部分も空中で分解し、尾翼部分が機体中部より先に地面に衝突、爆発したとみられています。
当初は、ミサイルの爆発により全員が即死したものと思われていましたが、調査の結果、遺体の1つが酸素マスクを装着していたことがわかりました。
- 機材:ボーイング777ー200ER
- 死者:乗客乗員全員298名
- 生存者:0名
エチオピア航空302便墜落事故(飛行機が海面や地面に激突)
アディスアベバのボレ国際空港発、ナイロビ行きのエチオピア航空ET302便は、離陸後6分後にボレ国際空港の南東62kmの地点に墜落しました。
新しく搭載されたMCASというシステム異常により、飛行機がコントロール不能に陥り墜落したと考えられています(事故の中間報告より)。
離陸時から墜落までエンジンは94%の推力を維持しており、コントロール不能に陥っていた時には既に、最大巡航速度の340ノット(時速630 km/h)を上回っていました。
また、墜落直前の速度は500ノット(時速926 km/h)にもにも達していたと報じられています。墜落地点にはクレーターができており、機体は粉々に破壊されました。
- 機材:ボーイング737-MAX8
- 死者:乗客乗員全員157名
- 生存者:0名
飛行機事故で「死に瀕する瞬間」とは
上記の事故において、心身に深刻な損傷を与えるどのような現象が起こりえるかを考えてみます。
結論としては、一瞬で体が破壊されるか、意識を失うかのどちらかになる可能性が高いです。
- 高速の飛来物との物理的に衝突(即死)
- 火災(火災の前の衝撃、または火災により意識を失う)
- 爆発による衝撃(即死)
- 上空1万メートル(10 km)で外に放り出される(意識を失う)
高速の飛来物との物理的な衝突(テネリファ、エチオピア航空における事故)
飛行機が高速で突っ込んでくる場合、または、飛行機ごと地面・海面に高速で衝突する場合、どちらも多くな「衝撃」を受けることになります。

車の衝突実験を想像してみてください。
時速40kmの乗用車にぶつかると、体重の約30倍の衝撃がかかると言われます。
これは、あなたが体重50kgであれば1.5トンの力がかかることになります。これだけでも、骨折には十分な負荷です。
よく「強い圧がかかる」ことの表現として「Gがかかる」というのを見ると思います。
力の単位としてキロニュートン(kN)がありますが、1 kNが1Gに相当します。

クライミングをする人や、高所で作業をする人の命綱を思い浮かべてください。
この命綱は、どんな落下でも体を守ってくれるというわけではありません。
なぜなら、落下を停止させる際に発生する「力」が衝撃として落下者の体にかかり、損傷を及ぼすからです。
人体に損傷を与えない衝撃荷重は6 kN (6G)以下であり、死に至る限界値として12 kN(12G)と定めています。

12 kNかかれば死にます。
さて、テネリファの事故の際には、離陸に必要な速度前後(時速約250km/h)のスピードが出ていました。
また、エチオピア航空における事故では時速 630 km/h程度のスピードが出ていたそうです。

墜落時の速度は、事故状況によって様々ですが、通常、飛行機は高度1万メートル以上では850 km/h程の速度で飛んでいます。
かなり乱暴で雑な計算ですが、例えば、時速300 km/h、体重100 kg(質量を当人のみと考える)、制動距離1 m(止まるまでにかかる時間)と少なめに見積もったとしても、693 kN(≒700 G)くらいかかるようです。
衝撃力 F = mv / ∆t(kN)【m=質量, v=移動速度, Δt =制動距離】
このレベルの力がまともにかかった場合、意識がどうこういうまでもなく、体が破壊される可能性が高いです。
運よく、何らかの理由で衝撃が和らいだとしても、頭部を強打してしまえばひとたまりもありません。
また、頭部以外にも、例えば胸部(心臓)に瞬間的に強い衝撃が加わると、心臓の鼓動のリズムを正常に保てなくなり心停止することがあります(野球の練習中にボールが胸にぶつかるなどの事故に見られる)。
心停止に陥れば、意識も失います。
火災(テネリファにおける事故)
火災の恐ろしさは言わずもがなだと思います。
上記のように強い衝撃を受け気絶した場合には、もし体に損傷を負わずに済んでいても、一酸化炭素等の酸欠症状であっという間に致命的な状況になります。
テネリファの事故では、運よく衝撃で即死を免れ意識が残っていた人は、機体の外に出ることができたようです。
爆発による衝撃 (マレーシア航空における事故)
ミサイルの種類にも寄りますが、炸裂することで高速の飛散物を撒き散らすことで物体や体に大きなダメージを加える仕様になっており、高速の飛散物に当たれば即死です。
また「爆発」というのは、マンガとは異なり、迫り来る飛散物や炎さえ避ければ生き残れるというわけではありません。
以下の記事にもある通り、爆発による衝撃とは「周囲の空気の密度」を恐ろしい速度で変えることです。
最初の圧力変化は、爆風が爆発した地点から外側に向かって球状に空気が押され、圧縮することで起こります。その次に、空気が押されたあと、元の空気が存在していた空間には新しい空気が入り込めず、部分的な真空状態ができます。つまり、人間の近くで爆発が起こった場合、その人はまず爆風による圧力を受けた直後に、真空に近い状態にさらされることになります。(GIZMODEより引用)
このような凄まじい圧力変化が間近で起これば、体は引き裂かれバラバラになってしまうそうです。
上空1万メートル(10 km)で外に放り出される(マレーシア航空における事故)
飛行高度である1万〜1万2千メートル(10km前後)では、空気密度が低く、地上に比べて33.7%であり、また外気はマイナス40〜マイナス50度です。

富士山の約三倍ほどの高さに相当します
空気密度の低い所(つまり酸素濃度の低い状態)では、人が意識を保っていられる時間には限りがあります。
有効意識時間と呼ばれるこの時間は、上空1万〜1万2千メートルでは約30~45秒とされています。
また、外気マイナス40度というのは、撒かれたお湯が一瞬で凍って雪になる様な状況ですし、素足の状態で外を歩けばすぐに凍傷になる様な寒さです。
もしも何らかの理由で、飛行機の外に無傷で放り出されても、巡航高度に達していれば投げ出されてほどなく意識を失うと考えられます。
マレーシア航空17便の乗客に関しては「自分に何が起こったのかわからないまま、ほどなくして意識を失っただろう」との報告がなされています。
ただし、上空3,000メートル以下のある程度、高度が低い場合には意識のある状態で約30秒ほど(空気抵抗は無視した計算)落下し続けることになります。

スカイダイビングはだいたい高度3,000メートル前後の高度で行われています。
(計算ツールはこちらのサイトのものを利用させていただきました。)
こちらの記事も参考にどうぞ。
「何が起こるか分からない」からこその不安
「飛行機事故はほぼ起こらないから、そのことについては考えなくても大丈夫」と言う意見は一理あります。
しかし、やはり「事故が起こったら」どうなってしまうのか「何が起こるのか」が気になって余計に不安になってしまうものです。
事故の詳細を考えれば考えるほど、死に至る原因がいかに恐ろしいものかがわかりました。
一方で、「その時」がきた時、冷静に周りの事態を把握できる可能性が低いこともわかりました。

何もわからないまま死んでしまうなら、本人は楽なのかもしれません。
ただし、1985年の日航機ジャンボジェット機墜落事件のように、問題発生から墜落まで30分もの時間を要するものも存在します。
結局、未来はわからないものとして、その時が来ないことを祈りつつ、いつも通りに生きるしかないようです。